チラシの裏に書く寝言

強引に こねてまとめて とりあえず焼いた

チェーザレ 破壊の創造者 ー1月21日の客席より

 

 


1月21日 ヴェルデチームの回です

 


個人的な事なのですがわたくし大きな劇場でミュージカルを観るのが1年以上ぶりでして、そんな干乾びた状態で挑んだチェーザレは、一目でこだわりの感じられる豪華な衣装!これでもかと回転する盆!!一人でも有り難い歌上手ベテランの大集結による怒涛の美声!!!それらを全身で浴びてしまったのでそりゃあもう嬉しくて嬉しくてテンションが最高潮になってしまいました。
というわけで、鉄は熱いうちに打て!じゃないですが、いま胸にある興奮が冷めぬうちに形にしておきたくなったので、このブログにしては珍しく直近に観劇した作品の感想を載せます。
いつにも増して勢いだけで書いているのでさらっと読んでいただければ幸いです。

 

 

 

舞台は15世紀のイタリア。あまり馴染みがない時代の、政治や宗教が複雑に絡んだ物語。そしてグランドミュージカルなので当たり前ですが登場人物が多い...!なんだか噛みそうな難しい役名の方もいる…!
このまま丸腰では話についていけなくなるかもと不安になってしまったので、公式から出されていた相関図とにらめっこし無料公開されていた原作をありがたく読んだうえで劇場に向かいました。

 

余談ですが、今回初めて知ったこの原作、その美麗な絵柄と映画の様なこだわり抜かれた構図の数々に一目惚れしてしまったので近々買い揃えたいと思っています。重厚なストーリーの中にクスリとできる軽やかな笑いが織り込まれているのもツボで、綿密な取材のもと描かれた衣装や建築物も圧巻。
観劇きっかけでこんなに素敵な漫画に出会うことができてとても嬉しくなってしまいました。

 

舞台の感想に話を戻しますが、台詞や個々のエピソード自体は原作の要素を丁寧に拾い集めて作られた印象でした。
ただ、三時間という時間の中に膨大な情報やストーリーをぎゅぎゅっと凝縮させなくてはいけないので、全体を通して観るとそれらの場面がかなりザクザクと並べられてしまっているな、と。これはこの作品に限らず長編の原作を持つ作品ではどうしてもネックになりがちな点だと思いますし、事前にある程度話が頭に入っていた分脳内で状況の補足をしながら十分楽しむことができましたが、それがない場合は最低限この時代の知識を持っていないと今はどこの場所にいてどういう状況?や、この人物達の関係性は?といった点を把握する事に気を取られてしまうかもと感じました。

 

 

 

中川さんが単体で16歳を演じる姿は容易に想像ができたのですが、正直それが若手の役者さんに混ざってとなるとどのように見えるのだろうと思っていましたが全く違和感ありませんでしたね。
圧倒的な歌唱力や成熟した雰囲気はむしろ他の学生達の中で一際輝くチェーザレのカリスマ性として昇華されていましたし、時折達観したような表情を見せるのが印象的でした。
近寄り難いのかと思えば時には若者らしい一面もあって、お祭りの賑やかな喧騒の中、場違いに片膝をついて女の子に薔薇を差し出すもツンとあしらわれ一瞬キョトンとする表情や、ジョヴァンニの前では少し気安い雰囲気になりソファーに脚を上げてお行儀悪く転がっている様子が微笑ましかったです。

 

一幕の二番目ぐらいに歌われたチェーザレのソロナンバーが情感たっぷりな歌謡曲の香りを感じるメロディで耳に残っています。明らかにイタリアっぽさはないけれど不思議とこの世界観を邪魔していなくて面白かったですし、他にもいくつかそういうクラシックな曲調のものがあったのが私にとっては新鮮に感じられて好きでした。
ただ、音響の関係なのかやや説明的な歌詞が多かったせいなのか私自身のコンディションの問題があったのか、歌詞や台詞が上手く頭に入って来ずにするすると通り過ぎてしまう瞬間が何度かありました。
生演奏と楽器のように美しく響く歌声を聞くだけでも気分はとても高揚したのですが、もう少し言葉を自分の中に取り込んで咀嚼したかったなと。本当はもう一度劇場に行ければ良かったのですが都合が付かず...嬉しいことに配信が決定したので、この日に抜けてしまった部分もちゃんと確認したいと思います!

 

 

 

一番テンションのあがった歌唱場面はやはり、ロドリーゴ役の別所さん、ジュリアーノ役の岡さん、ロレンツォ役の今さんによる三重唱でしょうか。あまりの素晴らしさに、全然そんな気分になる場面ではないのについマスクの下でにっこりしてしまいました。
この御三方はその重厚で豊かな歌声に相応しく役の上でも強い権力を持っているので衣装も特に豪奢。そしてその衣装を見事に着こなしてしまう存在感に、登場しただけで場がぐっと締まるようでした。
惜しみなくたっぷりと使われた布地には箔や織りで美しい模様が施されていて、それらが照明を受けてキラキラと贅沢な輝きを放つ様子にはため息が出るほど。
まさに目も耳も幸せな瞬間!

 

次期教皇の座を争うロドリーゴとジュリアーノはどちらも威圧感の塊!強い!!という感じでしたがその方向性にはそれぞれ違う色を感じました。
ロドリーゴはとにかくパワフルで俗物的。沈む直前の太陽のようにねっとりとギラつく野心を常に剥き出しにしていて、『ケッ』っと吐き捨てながらマントの裾を摘んでわざとらしく翻す姿は聖職者に似合わずどこか道化じみていました。
ソロもラテン調のノリの良いナンバーで、客席をも巻き込み手拍子が沸き起こる中歌い上げる勢いにあてられて、もう既にロドリーゴの天下が訪れてるぞ!!凄い!という気持ちになってしまうほどでした。
一方ジュリアーノは、一言発した瞬間から場の空気を震わせた他を寄せ付けない威厳が終始崩されることがなかったなと。
権力を得るために残酷な手段も厭わずそこで出た犠牲を気にもとめない冷徹さを持ちながら、あくまで自分は神に仕える身であるという霞むことのない敬虔さと硬質な信念を感じました。
鮮烈な高潔さを感じる神への祈りのソロは、観ているこちらまで強制的に浄化されてしまいそうでした。

 

丘山さん演じるラファエーレも、同じ枢機卿である上の二人とはまた別種のインパクトがあって目が釘付けになりました。
権力闘争の渦中にいながらもそんなことは考えたくないっ!と言わんばかりに美しいものが好き!!とキラッキラに歌いあげ、白っぽく輝く華やかな衣装をひらりと翻しくるくるぬるぬると踊る姿が印象的でした。ラファエーレ自身も華やかで美しい容姿で、キラキラキャピキャピした効果音が目に見えるようなのに、そこに全然嫌味がなくて純粋に芸術を愛でるこの瞬間が楽しい!!って空気がバンバン伝わってくるのが良かったです。

 

 

 

これどうやって表現するんだろう...?と原作を読んで気になっていた乗馬の場面は、舞台全体を覆うスクリーンに実際に馬に乗ったチェーザレとアンジェロの映像が大きく映し出されてなるほどそうきたかと。
生身の人間が行う演劇において舞台上に人がおらず映像だけを眺める時間があるのは不思議な気持ちもありましたが、映画さながらに凝られた映像で斬新な試みだなと思いました。
他にも会話や歌詞に登場するリアルな自然の風景や美術品が投影されていましたが、こちらは舞台上を彩るというよりは資料的な印象が強くて、見る側に対しての分かりやすさを優先したのかなと。
ダンテとチェーザレの対話の場面で、まるで不穏な未来を象徴するかのように滲み出た赤が階段をじわじわと染めていったのは不気味さの中にも美しさがあって好きでした。

 

 

 

劇中幾度も『アンジェロ…天使という名前…』とチェーザレに非常に優しく素敵な声で歌われていたアンジェロ。
山崎さんのアンジェロは、そう呼ばれるにふさわしい純粋さと愛らしい天然っぷりでふわふわと包みこんだ中にしっかりとした芯があって、うっかり口をすべらす事もあるけれどいざという時にはちゃんと自分の意思で主張が出来て肝が据わっている逞しい印象を受けました。
最初は見知らぬ環境への不安からかスラリとした長身をぎゅぎゅぎゅっと縮こませながらも、新しい出会いには瞳がキラキラと輝いて口角のキュッと上がる表情が魅力的でした。どれだけ厳しい現実を目の当たりにしても失われる事のない澄んだ瞳のきらめき具合に、アンジェロの瞳専用の照明でもあるのかと一瞬思ったほど。
意外とリアクションが大きくて、慌てたり逃げ回ったりする時のコミカルな動きやころころ変わる全力な表情も愛嬌がありました。乱闘の場面では襲いかかってきたフランス団の人にうっかりグーパンチで反撃してしまって、倒れた相手にびっくりして拳を抑えたまま『ゔあぁ!??』ってなっていた様子が全然喧嘩慣れしていなくて良かったです。

 

乱闘の場面で一等輝いていたアンリ。原作だともっと話が通じなくて好戦的な怖いやつという印象でしたが、山沖さんのアンリは荒々しくもどこか憎めないキャラクターになっていたなと。
ドスの効いた歌声と大きな身体を惜しみなく使った力強い身のこなしには独特の迫力かあって、まさに闘牛のような猛々しさに絶対近寄りたくないなと思ったのですが、諦めの悪いバカと評されながらながらふらつきつつチェーザレに向かっていく様子に彼には彼なりの主義があるように感じました。失神して運ばれていく姿もちょっぴりお茶目でしたね。
酒場の場面でみんながチェーザレを称え盛り上がる中、彼を見下ろしながら憎々しげに歌う姿も好きでした。

 

橘さんのミゲルはまずビジュアルがミゲルそのもの!

その分評価が甘くなってしまった気もするのですが、そうさせる説得力もある種の実力かと。
原作よりもチェーザレとのやり取りが少なかったぶん、より寡黙に、陰のように支える印象が強かったです。常に剣の柄にかけられた手と、チェーザレの周りに危険がないか見張るようにピンと伸ばされた背筋、その立ち振舞いの美しさに目を引かれました。
パフォーマーというだけあって、2幕のダンスも登場から既にカッコ良くて痺れました。ポーズをキメたままセットの回転と共に現れるので一歩間違えればシュールになりそうなんですけど、ミゲルをはじめスペイン団のメンバーの皆さんも魅せ方に全然隙がなかったです。
おそらく絡まったロープを解いてあげていたのかな?工場建設の場面で作業場の女性たちをサッと手伝って喜ばれている姿がイケメンでしたね。

 

女性たちといえば、この作品の女性キャストさんって5人だけなんですよね。その割には出番がたくさんあって裏では早替えとか大変そうだなと。
チェーザレの母親から、ガッツリ歌い踊るラファエーレのバックダンサー、お祭りを楽しむ市民に、貧民街の人々、軽やかな衣装を優美になびかせたボッティチェッリの歌の踊り子と幅広く魅せていて、酒場の場面ではだいぶお腹の大きくなった妊婦の店員さんまで。
コーラスもパワフルで、そういえば5人しか出演していないんだっけ!?と途中で思い出してびっくりしてしまいました。凄い!拍手!!

 

 

 

風間さんのジョヴァンニは一見気位が高く気取っていると見せかけて、実際はあえて頑張ってそういう雰囲気を出していたのかなと。権威あるメディチ家の息子として、他の学生より一歩上に立ち大人でなくてはという気持ちがあるように見えました。
アンリに何でも金で解決すると揶揄されて一瞬顔色が変わった後、すぐに持てる者特有の鷹揚な振る舞いに戻ったのも感情に流されず自分の取るべき行動をわきまえている印象でした。
そんなジョヴァンニの内面の直向きさを強く感じたのが卒業試験の場面でした。
『私は美しくないが』と前置きしながら(風間さん自身は整ったお顔立ちですし舞台版ではその辺言及されてませんでしたが、おらく容姿について言ってるんですよねこれ?)美しいものを美しいと感じられることへの感謝、その心を持って生きる事の大切さ、それをもたらす芸術への愛を真摯に歌う様子に、閣下はそのお心が!誰よりも!!美しいので!!!そんなこと言わなくても大丈夫です!!!!と立ち上がって拍手したくなるほどでした。
でも歌終わりに直ぐ台詞が入るのでタイミングがなくて残念。

 

この試験のやり取りを聞いてふとロレンツォの事を考えたんですよね。
市民を想うあたたかい眼差しと職人たちの技術を尊重し支援する懐の深さや穏やかな佇まいを思い出して、あの父親と豊かな環境によってこんなに素晴らしい子が育ったんだなというのが伝わってきて感慨深くなりました。
この親子の直接的な交流は劇中あまり描かれていなかったと思うのですが、その言動から読み取れる関係には優しい愛情が流れているようでした。
そう感じさせてくれた今さんのロレンツォは枢機卿組のお二人とはまた違うベテランの貫禄で、その歌声にも包み込むような癒しの雰囲気がありました。

 

 

 

2幕のラストのチェーザレのナンバーの歌詞が、『とても美しかった』で〆られたことで、その瞬間ああこの人の短い青春は終わったんだなと妙に腑に落ちたんですよね。
この作品はドラマチックな展開の末の大円団はないですし、物語はここからといったところで結構唐突な終わりを迎えてしまうためかいまいち盛り上がりどころがないとの感想をいくつか見かけたのですが、最後の最後でそういうほろ苦い喪失感を一気に味わうことで、今までの場面場面が思い返され懸命に生きる若者たちの青春が煌めいていたなと感じられるところが私は好きでした。
その最中にいるときは気づけなくて、失ってからはじめてわかる。みたいな感覚とでもいいますでしょうか…

 

ここまでざーっと書いてみて、今回は正直、細かいことはどうでもいい!!と言わんばかりに全てを圧倒する歌声と役者さんそれぞれキャラクターづくりの上手さとハマり具合にかなり助けらていた部分が多いのかなという気がしてきましたが、普段は違う系統の作品で活躍している若手と中堅とベテランがバランスよく集結しそれぞれの良いところが生かされていると思いましたし、なによりせっかくの国産ミュージカルですし、まだまだ進化していけそうな予感がするのでどんどん手直ししながら長く再演される作品になってくれたら嬉しいなと思いました。

 

 

 

 

 

----------------------------------------------
チェーザレ 破壊の創造者
明治座
2023/01/07(土) ~ 2023/02/05(日)

ミュージカル「チェーザレ 破壊の創造者」公式|明治座