チラシの裏に書く寝言

強引に こねてまとめて とりあえず焼いた

ドリームガールズ ー2月11日の客席より

 

 


ドリームガールズ…曲はなんとなく聞いたことがある気がするけど…3人組の黒人の女の子のコーラスグループで…ぐらいの知識で、当然BW版も映画版も観たことがなく、実話が元になってるという事すら今回はじめて知ったような人間が書いた感想です。

 

 

 

とにかくずっと音楽が溢れている…!
そんなのミュージカルだから当たり前でしょと言われそうですが、ただ劇中で沢山の曲が演奏されているという意味ではなく、舞台上の音の密度がとても濃くて常にその中で溺れているような感覚がありました。
もちろん演奏が止んで台詞のみが舞台上に響く瞬間もあったのですが、それすらもまるで音楽としての間のように聴こえました。
舞台の中心には少しだけせり上がってフチに細いLEDが取り付けられたターンテーブルのような盆が据えられていて、ひとたびそこに上がればわざわざセットを移動させてこなくても瞬時にステージが出来上がるシームレスさも、この音で溢れ続ける空間に相応しいセットだと思いました。

 

ストーリーとしては黒人差別に抗いながらブラックミュージックがアメリカ全土を席巻していく華々しい快進撃…を勝手に想像していたのですが、そういった外への広がりよりも華やかなショービジネスの裏に落ちる黒い影や仲間内での痴情のもつれで人々が擦り減っていく様を強く感じました。
もしかしたら沢山ヒントになる演出があったのかもしれませんが、ディーナ達黒人が当時置かれていた立場やあそこまでのし上がる事がどれだけ壮絶な覚悟がいる事だったかについては正直半分も汲み取れた自信がなく…そういう理由もあってより内々のドロドロしたものに目が行ってしまったのかもしれないなと。やっぱり馴染みのない時代や文化が扱われた作品にふれる時は予習をしておくべきでした。反省。

 

 

 

どこを見ているんだと突っ込まれそうですが、舞台後方と両サイドをぐるりと覆っていたパネルのセットがずっと気になっていたんですよ。
下町を思わせるレンガの壁のようなものとライトが仕込まれた白っぽいものが場面によって使い分けられていて、建物やステージなどの目立つ大掛かりなセットがほぼない中、べったりと平面的で大きなそれらは異様に目立つなと。
華やかなステージの場面などは吊り物のセットで奥行きを出していましたが(ここで吊るされる一面のcdやクラシカルなタッチのイラストがまた絶妙に時代感のあるもので良かったです)売れる前のドリーメッツやグループを離脱したエフィの登場する場面では天井に向かって高くそびえたパネルの主張が強く閉塞感を感じて、なんだか彼女たちの前に立ちはだかる障壁として存在しているようにも思えました。

 

で、このパネル、両サイドはちょこちょこと開いていたのですが後方の中央部分が開くのはディーナがカーティスとの別れを決意した時だけだったと思います。
形状的にどこかのタイミングで開くのかなという気はしていたのですが、ディーナの歩いていく未来が切り開かれたことを示すかのように満を辞して真ん中からババンと開きその奥の光に向かって進んで行くシルエットに、これぞ主人公たる人間にのみ許された演出!!と気持ちが高ぶりました。

 

 

 

主演として大きくポスターに載っているのにソロが無いなんてと驚いてしまいましたが、上にも書いた通り要所要所でしっかりとその存在を示していたディーナ。
そのドラマチックな人生ゆえに、おそらく劇中で一番スポットが当たっていたエフィに喰われてしまってはいけないし、だからといってこの作品がディーナ“の”話になるのも違うし、カーティスやローレル達も含め繊細な力関係のバランスで成り立っていたのだろうなと感じました。

 

自分の意思を押し殺して耐える性格といえば聞こえは良いけれど、グループの為とはいえ何度も『だってカーティスが言ったから』を免罪符に決定権を放棄するディーナにはやきもきしてしまいました。夢を掴むための彼女なりの最善策なのだろうけど本当にそれでいいのかなと。
エフィのように我を通そうとして輪を乱してしまう方が問題として目に見えやすいけれど、お人形としてステージに存在する事だけに徹して他の全てを人のせいにしてしまうのもある意味狡いしグループの軋轢の要因になり得るのじゃないかと。
そんな目線でディーナの事を見ていたからこそ、やがて心身ともに疲弊しながらも自分の力で立つ決意をした姿とその振り絞るような歌声に一層胸を打たれました。

 

望海さんのディーナは彼女の成長と変化が丁寧に描かれていて、リードボーカルに抜擢されて『私できないやりたくない!』と華奢な肩を不安げに震わせていた女の子と同じとは思えないほど、2幕ではスターとして堂々とした表情でステージに立ち、ベタな表現ですがその姿はまさに蛹が蝶へ羽化したような、大輪の花が匂い立ち鮮やかに咲き誇るような光り輝く魅力がありました。

 

 

 

何故か私は昔から、才能があって我が強くて生きるのに不器用な人物に肩入れしがちで、今回も出番の多さとかは関係なくそれに当てはまっていたエフィを擁護する気持ちがずっとありました。収録中にディーナの妨害をしたのは確かに大人気ないですし遅刻も度が越せば許されることではないですが、それでもエフィのやらかしたことはそこまで深刻に描かれていないようにみえたので、彼女に対する周りの態度にはそこまですることなのか!?と。
強いアーティスト性を持ち歌でグループを牽引してきた自負のある彼女をコーラスにした時点で上手く割り切れないのは目に見えていたでしょうし、それを指示したのが自分の恋人でその上メンバーと関係を持っているかもとくれば不安定になるのも当然なのに、どうして誰も彼女の事を気にかけなったのだろうと。
周りも彼女の元来ある我儘ともとれる面ばかりに目が行ってフォローする気になれなかったのかもしれないけれど、あまりにも“みんなの夢のため”という名の手が負えないほど大きくなりかけた自分達の都合ばかり気にして目の前の人間を蔑ろにしているように見えました。

国際フォーラム自体がそういう仕様なのかスピーカーに近い席がハズレだったのか分かりませんが終始音響がとても悪く、さあ盛り上がって参りましたとキャストが声を張り上げた所で尽く音割れしていたので、迷惑をかけるなと一同からエフィが糾弾され拳の代わりに音圧で殴り合う場面は必要以上に怒鳴って聞こえ、さらに上記の理由も重なりしんどく感じました。

 

Wキャストのエフィは私が観た回では福原さんが演じていて、このキャステングは上手いなと唸ってしまいました。
福原さんのプロフィールを見たところ歌手活動がメインの方なんですね。
それもあってか、所謂ザ・ミュージカルではないドリームズやエフィのソロの楽曲たちをソウルフルにカッコ良く“歌”として聴かせる事に関してズバ抜けていて、それぞれ十二分の歌唱力を持ったキャストの中でも『歌はエフィが一番』という劇中の評判に違わずしっかりと輝いていたなと。
あの飛び抜けてパワフルな歌声だからこそccの言った『姉さんの歌は上手いけど強くて違う方向に行く』も納得できるし、台詞の掛け合いをパフォーマンス重視で表現していたのも才能があるが故にグループ内で異質な存在となってしまったエフィには合っていたと思います。

 

 

 

大体全部アンタのせいだよ!とありったけの声を張り上げて野次を飛ばしたくなったカーティス。
出だしから敵に回したくないやり手な匂いがプンプンしていて、人を魅了する話術と戦術に長けていた胡散臭いカーティス。
野心と才智に溢れ良い人の要素が全く感じられず、 エフィとも彼女をただ懐柔するために付き合ってるのかなと思えるような男だったからこそ、どんなに醜い姿を晒してでも絶対に成り上がって行くのだろうと期待していました。
それなのに最終的に黒人の誇りを示したかったのかただ権力が欲しくなったのかディーナを手元に置いておきたかったのかよくわからないまま呆気なく破滅してしまった彼に対する失望感は大きく、それだけspiさんの序盤で人の心を掴む演技が効いてたんだなと感じ、ドリームズの成功と挫折それから新たな旅立ちの物語であるとともに、一人の男の没落の物語としての印象も強く残りました。
上の方でも触れた音響の問題ですが、声質の相性もあったのかspiさんの太く力強い歌声はそんな環境にも負ける事なくしっかりと届いてきたのでその点も凄いなと思いました。

 

 

 

ジェームズがクサイ恋愛ソングを歌い上げるなか、こんなはずじゃなかったと手をとり慰め合うディーナとローレル、お姉さんを助けて貴方も自由になるべきとccを説得するミシェルの図にはちょっと色恋沙汰が渋滞し過ぎているなと感じてしまいました。
ここにいないエフィとカーティスを含めすべての関係が仲間内で完結しているので余計に逃げ場がなくて絡れて見えるし、皆がみんなくっつけなくても良いんじゃないのかなと。

 

ジェームズとローレルのカップルは、パートナーがいる身でありながら若い子と関係を持ってしまうどうしようもなさとそれでも霞むことのない愛嬌を持つジェームズの人間性や、そんな彼を通してローレルが憧れの人との初めての恋に浮かれる女の子から芯のある大人へと変貌していく様子、その中に併せ持つ恋人に対するキュートな我儘さなども上手く描かれていてまだわかるのですが、尺が足りなかったと言えばそれまでだけれどミシェルとccの関係はいくらなんでも唐突で情報も想像する余白も無さすぎるように感じました。
最初は揉め事に巻き込まれたくないと言っていたのにそれでもちゃんとドリームズを支えてきた訳で、そこに至るまでにミシェルなりの考えや葛藤があっただろうに、他の2人が新しい道への希望を宣言した時に大声で主張したのが『私プロポーズされたの!』なのはちょっとあんまりじゃないかと。その前にもっと彼女自身の事を聞かせて欲しかったです。
ミシェルという存在があって彼女がccと恋に落ち結婚を喜んだのではなく、“エフィを助けさせるためにccの背中を押す恋人”として雑にそのポジションにあてがわれたように思えて残念な気持ちでした。

 

 

 

ストーリーの好みや音響の問題など若干引っかかる事もありましたが、歌も芝居も満点のキャスティングや音楽に乗ってぐんぐんと力強く物語が進んでいく構成は確かに素晴らしく、口コミが非常に良かったのも納得だと思います。
ショーやオーディションなどたくさんのグループが集う華やかな場面では実力のあるアンサンブルキャストの方々のダンスや歌がしっかり堪能できたのも嬉しかったです。
あとはやっぱり衣装ですかね!特にドリームズのメンバーは少女時代の素朴なお洋服から洗練されたステージ衣装までもう何回着替えたか分からなくなるほどで、次はどんな姿が見れるのだろうと場面が変わるたびにワクワクしていました。
1幕で着ていた大振りのホログラムがキラキラするミニワンピが特に可愛かったです。

 

なんだかんだですっきりとした大円団でしたし、ミュージカル観たな!と思える作品でした。

 

 

 

 

 

----------------------------------------------
ドリームガールズ
東京公演
東京国際フォーラム ホールC
2023/02/05(日) ~ 2023/02/14(火)

ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』 | 梅田芸術劇場