チラシの裏に書く寝言

強引に こねてまとめて とりあえず焼いた

スリル・ミー 田代/新納ペア ー5月30日の自室より

 

 

 

未だ2021年の5月30日に取り残されている人間の寝言。

 

 

 

実は、にろまりペアの配信は観るかどうかかなり迷いました。

「これは愛の話だ。愛に呑まれてしまった男の話だ。」と劇場で観た時に不思議なほどストンと腑に落ちて、わたしの中でこの二人のスリルミーがあまりに綺麗な形で完結してしまっていたので、いざもう一度映像で観て思っていたのと違う…とか、何か粗が見えてしまったら…と思うと怖かったんですよね。 

でも二度と無いかもしれない配信のチャンス、観ないよりは観て後悔してやんよと腹を括りました。

同じ愛がテーマだとしても、今回は最終的に彼が一番安らげる場所が私のそばにあったことに気づいたようにみえて、愛に呑まれたのではなく救われた男の話に感じました。

結果、思ってたの違う!!となったわけですが、スリルミーという作品にこういう観え方があるのかと衝撃で余計に惹かれてしまいました。本当に観てよかった。

 

 


3人の彼の中で唯一、私の前で高圧的な態度や打算を含んだ言葉を吐くことがないように見えた新納彼。

超人とか犯罪自体に魅力を感じる狂気的な側面を持ち合わせているというよりは、それさえ成し遂げられれば父親からも世間からも呪縛を受けない自分になれるという蜃気楼のような希望をその行為の先に見出してしまって、何とかしてそれをつかもうとしているだけに見えて、彼達の中でも一番普通の人のように感じました。

だから殺人の後もそこまでハイになっていないし、他の彼達が自信ありげに言った『顔が潰れてるから〜』っていうのも別に何事もないようにサラッと流して言ったように思えました。

 


ただ、子供を誘拐する時の新納彼はパッと見優しげではあるけれど貼りついた笑顔の下に感情がないというか、漠然とした“子供とはこういう風に扱えばいい”という定型にそって淡々とこなしているように見えまして。そうやって本当に自分の目的の為だけに、興奮すら覚えず子供を手にかけたのならそれはそれで相当に心が麻痺しているなと!?

上で狂気的じゃないとか言ったけれど、やっぱりかなり狂っていたかもしれないですね。

 

 


万里生私は新納彼よりもずいぶんと小柄で守ってあげなきゃいけない人みたいな印象を受けたのですが、ちょっと冷静になって2人並んだところを見るとあれ大きい...?新納彼ほとんど身長が変わらない...?と。

でもリアクションや表情だけみると甘いミルクの匂いでもしてきそうというか、いかにも愛されてる子供のような雰囲気を纏うことがあって、そういうのもこのペアがあまり殺伐としていないように見えた一因なのかなと。

ただ甘ったれなだけでなく、ニーチェを読むときにしていた目次をざっと確認してから当たりをつけてページを開くような、いかにも勉強ができる賢い人の本の読み方といった仕草や、万里生私にしては珍しく指示より早くハンカチを取り出して血が出てるのが許せないくらいの勢いで指先を拭っていたのが潔癖っぽい上に上流育ちな感じがしてその辺のバランスが良かったです。

 


反対に54才の姿では妙にふてぶてしいというか、彼との大切な思い出を他人に話したくない、早くここから立ち去りたいという感じで完璧に心のシャッターを降ろしていて頑なな印象でした。

この手の凶悪犯罪は~と言われて強くそれを否定したのも"2人でやったこと"をそういう括りにされたくないみたいで。

なんだか全体的な態度をみていて思ったのですが犯罪に対しての罪の意識とかは全然持ってなさそうでしたね?35年経っても彼のことしか頭にないな万里生私...??

 


それなのに審議委員会では『彼の友情が必要でした』とだけ証言するんですよね。回想での二人の会話も『ただの友達じゃない』『抱きしめてほしい』『お前がいなきゃ駄目なんだ』『うわべだけの親友か?』と。これだけ言っているのに劇中で愛だの恋だのという表現は一言もないんですよね。

本当にそういう会話が無かったのか"54才の私"がワザと証言しなかったのか…。

 

 


劇場で観た際の感想でも触れたかもしれませんが、契約書の場面にこのペアの関係性がよく出ていると思うんですよね。

最初万里生私はまだちょっと納得していない様子でタイプライターに文句をつけてたのに、新納彼に有無をいわさぬ様子で急かされればサクッと切り替え、きっちり眼鏡をかけアイコンタクトをしながらうなずくし、新納彼もそれを確認してから本題に入ったりとか。

 


指を傷つける時も強引ではあるけれど、怯える万里生私を優しくなだめるような愛情のこもった微笑みを向けたりとか。

自分で切った時には眉ひとつ動かさないのもあくまでもスマートで頼もしい、万里生私の理想の彼像を演じている面もあったのかなと感じたりもして、やっぱりこのペアは関係の作り方が他と違って独特だなぁと思いました。

『2人を決して離さない~』のあたりで、嬉しそうに迫ってきた万里生私を落ち着けって感じでツッと押し返した時も、冒頭の公園で万里生私に引き留められて振り返った時もまるで手のかかる子共に苦笑しているようで、小さな頃からこうやって新納彼が万里生私を庇護して手を引いてきたんだろうなというのが浮かぶようでした。

キラキラした目で一生懸命慕ってくる万里生私のことが可愛かったんじゃないかなと。

なんかもう『一番大切な僕の元へ』と歌う万里生私の説得力が凄かったですもんね。

 


だからこそ、そうやって自分の後をついてきた万里生私が自分より恵まれた家庭環境や優れた頭脳を持つことへの嫉妬やら、常に優位に立って翻弄してやりたいという欲求からわざと突き放したりもしてたのかなと。可愛いのに憎たらしいみたいな。

盗んだタイプライターを高級品だと得意気に言ったり、私の高級な眼鏡に対して激昂する様子に一番屈折した感情を滲ませてたのが新納彼な気がしました。

配信のバクステツアーで彼はタイプライターだけでなく机まで盗んでいたと知り、思わず机をガチャガチャさせながら運んでくる姿を想像してしまったのですが、そもそも盗んだ机を使い続けなきゃいけないって何事だろうって。

 

 


このところ何も感じない、なんのスリルもないと喉元に手をかけ逃れ難い焦燥に溺れそうになっている新納彼の悲愴な姿をみて、強盗をして逃げてきた時の異様なはしゃぎぶりは麻痺した自分の感覚を戻したくてわざと大袈裟に振る舞っていたのかもって気がしました。

だから、そんなふうに今にも崩れ落ちそうな状態で『お前に従おう』なんてなげやりになるのは見ていて辛いものがあって。一方的に情欲をぶつけられてもうどうにでもなれと自棄を起こした頭なら、殺人なんて過激な考えが思わず出てきてしまうかもなと。

 


ここら辺は完全にお互いがお互いのことを全然みてなかったと思いましたね。

この直前『このスリルがたまらないんだ…』とこぼした新納彼の気持ちが自分以外に向いてると悟った時の万里生私は確実にブツッって何かが切れた音がして、真顔で言い放った『よくそんなに冷静でいられるね』が刺すような冷たさでゾッとしました。反対に、新納彼に迫る姿には圧倒的な質量の動物的な生々しい劣情があって、見てはいけないものを見てしまったようで震えるしかありませんでした。

未だに、ジャケットから抜き出された右肩の白いシャツに浮かぶ滑らかな丸みが脳裏に焼きついて離れないです。

でももし新納彼が万里生私のことをちゃんとみていたらこんなになるまで放っておかなかっただろうし、万里生私もこの世の全てがどうでもいいみたいな新納彼を前にしてこんな熱量で肉体的な行為を迫らないのではと。そもそも"契約"を盾に取って行なわれたものであんなに満足げな表情を浮かべられるものなのかなと…。そのへんの感覚もわからなくなるくらい彼に焦がれて狂ってしまっていたのでしょうか。

 


そういえば万里生私は物語の出だしから最後の最後までずっと泣いていて、あんまりにもボロボロと零れていく涙に干乾びてしまわないかと心配になるほどだったんですが、思い返すとその涙をしっかりと拭ったのは審議委員会で彼が亡くなった事実を話した時だけで。もしかしたら冒頭の公園で再会するよりもっと以前から万里生私の心は壊れていて、真実を告白したあの時まで自分の目から涙が溢れてることにも気づいていなかったんじゃないかなと。

 


そんな風にお互いもう自分を保てない程にメンタルがボロボロで最悪なタイミングで爆発してしまったにも関わらず、その直後に『人生で1度くらいドデカいことをしてみたくないか?』と後ろから頬を寄せて犯罪行為へと誘う新納彼は、2人でできるとても素敵なコトを思いついたと言わんばかりで、まるで万里生私との逃避行でも提案しているように見えました。

このペアはなんだかんだでお互い思い合っていたり、しっかりコミュニケーションがとれてる(ように見える)場面が多いけれど、実は噛み合っていなかったが故にあの結末を迎えてしまったみたいな面もある気がして、まるで壮大な両片想いをしていた様にも感じました。

 

 


顔が潰れているから、誰かわからないから『すぐに忘れ去られる』と彼が考えてしまったの、発見された子供の遺体と行方不明の子供を関連付ける親がいないと思ってるって事ですよね。身代金が要求されてるとはいえもしかしたら…って考えは頭をよぎるだろうし、もしくは自分の子じゃないと安心するために確認はすると思うんですが。そういう可能性を全く思いつかなかったのか、それとも怪しいと思っても調べて分からなかったらさっさと諦めると思っていたのか。

まあ作中でも、『俺が誘拐されても親父は世間体の為にしか助けない』と吐き捨てるぐらい親という存在に対して信頼は無いのですが。彼が少しでも愛された自覚のある子供だったなら、親が子供の安否に対してどれだけ執念を持って行動するかを想像できただろうし、あの場でもう少し危機感持ってたのかなとか思いました。

 


そんな他人に対してどこかドライな新納彼だけど、万里生私に対しては本気で心配したり慰めようとしたり、彼なりに大事にしたいんだろうなというのが垣間見えたんですよね。

俺と組んでの新納彼は自分を取り繕うこともなく万里生私を懐柔しようとするわけでもなく純粋に元の関係に戻ろうと懇願しているようにみえて、他の彼と方向性の違いにとても驚きました。

この場面は照明がとても美しく、青白い月の光のような、薄暗い教会に差し込む一筋の日差しのような冷たく澄んだ光の中、まるで祈る様にくちづけたのに、万里生私によって冷たく振り払われてしまった手が傷心したかのように小さく震えていたのが印象に残っています。

 

 


九十九年であんなに温かい涙を流す彼がいるとは思いもしませんでした。

『俺のこと見直したか?』って聞かれた新納彼、やられたなぁって感じで笑ったんですよ。自分のことが怖くなってしまったかと不安げに問う万里生私に、まさかってそんなことないって顔で振り向くんですよ…。

『これから君は孤独だ独り』の相手を突き放すはずの台詞が"こんな結果になってもう2人でいる事もできない"という哀しさを含んだものに聞こえたのは新納彼が初めてで、それに対しての『離れられない』が独りよがりでなくて彼の為 、そんなことは絶対にさせないって力強さがあったのも万里生私が初めてでしたよ...。

 


ゆっくりと階段を上がってゆく新納彼は、ほっとしたような表情を浮かべて薄く笑っているように見えて。

この場面は彼にとって支配している方とされる方が逆転するヒリヒリとした絶望の瞬間だと思ってたのですが、にろまりペアに関しては総ての善悪を超越して愛で包み込んでしまおうとした万里生私を、それまで自分が与える側だと思っていた新納彼が受け入れる形で、2人の小さな世界が完結したような気がして旋律に安心感すらあるように聴こえました。

 

 


何処にも居場所が無いと思い込み焦燥感に駆られていた新納彼が、心から安らげる場所が万里生私の側だったと最終的に気づいた話に思えて、よかったね、ハッピーエンド、ぱちぱち。とスタオベしたくなるほどでした。

冷静に考えると全然ハッピーエンドではないし、もっと他にやりようがなかったのかって思いで後からじわじわ辛くなってくるんですが、九十九年のあの瞬間だけは確実に2人の間に幸福があったと思います。

というか、どう頑張ってもそう思わざるを得なかったです。

 

 


配信のトークで、新納さんが宣伝ビジュアルのキャッチコピーである"究極の愛"について触れていて、そこを推してしまうと観る人が最初からそういう話だと決めてしまわないか、みたいなことを言っていたと思うんですが、私も初めてそのコピーを見たときから少し気になっていて、そこ全面に出されてもなぁ…どういう風に思うかはこっちが決めたいしなぁ………なんて斜に構えて劇場に行ったらとんでもなく愛だったので 色々いえなくなってしまいました。

配信にしても、あれだけ愛だ!!!!とデカイ花火を打ち上げられたら、不覚にもこちらも、愛です!!!!って叫びたくなるほどに気持ちがブチ上がってしまいますもん。

 


ヤマコーペアや成福ペアに関しては「いやでも君達人殺してるからね?犯罪だからね?」っていう客観的な気持ちが少なからず働くのですが、にろまりペアはあまりにも壮大な愛でそれらの問題を考えさせる間もなく吹き飛ばしてしまうので、このペアはそういう意味で恐ろしくて狂気的だなと思いました。

 

 

 

 

 

----------------------------------------------
スリル・ミー
東京公演
東京芸術劇場 シアターウエス
2021年04月01日 (木) ~2021年05月02日 (日) ※一部公演中止

配信日 2021年5月30日(日)17時〜

 

 

 

 

スリル・ミー 成河/福士ペア ー5月29日の自室より

 


半年間煮詰めて原形のなくなりかけた感想。

 

はいっ!スリルミー配信耐久レース2本目!!成福ペア!!
既に1本目のヤマコーペアで集中し過ぎて頭痛がしていましたが、これはアーカイブ無しの一発勝負、弱っている暇などないのです。
余韻に浸るのもそこそこに1本目の感想を吐き出し、気付けにアルコールを流し込みつつ備えます。ただ配信を観るだけなのに、もはや戦いに挑むような気分です。


1度目に観た時には何かを掴んだ気になっていたけれど、この配信で情報量が増えたことで、また頭が混乱し始めてしまった成福ペア。
正直この2人の示したモノがどういう形だったのか未だに落とし込めていなくて、考えれば考えるほどに自分の中で着地点と感情が迷子になっていき、まさに「2人の日々何だったのか」状態です。でも好き。

 

 


正直、劇場で観たときはここまで熾烈なパワーゲームが繰り広げられているとは気付きませんでした。
台詞を口にする前の表情やちょっとした間、些細な一言にも“相手を挑発する” “より優位に立とうとする”ニュアンスが含まれていて、目線一つとってもバチバチに駆引きしていたのだなと。映像として細部までハッキリと映し出されたことによって初めてそういう所に注目する事ができたので、本当に、本当に配信してくれてありがとうございましたホリプロさん…
2人のやり取りには、なんだか台詞一つ一つにまで意思があるというか、一言の説得力の重みがずば抜けていて、その表現力になんて恐ろしい人達なんだ…と。
そして全ペア観たことで改めて、そんな2人の応酬は異質なモノだったんだなと思いました。


もうね、台詞のキャッチボールというか豪速球ドッチボールですよ。ほぼ互角にバンバン投げあっているけれど、たまに成河私の球をまともに食らった福士彼が悔しそうにしてましたね。

 

 

これは映像で表情をよく見ることができたおかげなのか、単に観に行った回と違うせいなのか、無機質であまり考えが読めないと思っていた福士彼に、意外と人間らしさがあったのも驚きでした。
わざわざ私の方を伺いながら『前にもやったことがある』って他人の存在を仄めかしたのも『お前…以外のやつ』の、一瞬『お前』って聞こえるような区切りかたをしてリアクションを試すような発言をしたのも、成河私との応酬が楽しいがゆえに仕掛けているようで、なんだか表情豊かで生き生きとしているというか、あれ?めちゃくちゃこのゲームを満喫してるじゃないですかこの人?って。
『今夜はデートだ』って立ち去ろうとして引き止められた時に見せた振り向きざまの満足げな表情も、掛かったなとでも言いたげな嬉しさを含んでいるように見えまして、なんなの?福士彼ったら構ってちゃんなんですか?って一瞬思いましたね。その後だって煙草をふかして気の無いふりをしつつも、成河私がどう出るか物凄く意識してませんでした?
でもそうやって感情が分かりやすかった分、ふとした拍子に周りを見下すような底意地の悪い感じも伝わってきました。


ところでその公園の場面についてなんですけど、彼が留まる事を選んだこの冒頭と私を切り捨てて去ってしまった取り調べ後の場面、上手く表現できないけれどなんとなく対になっている気がしたんですよね。私を煽る為に“わざと”立ち去ろうとした彼と、気を引くために自首すると“嘘”をついた私。(この時の自首云々はまだ本気ではなかったんじゃないかと)
それから他にも、最初と最後に私が放つ『待ってたよ…!』とか、誘拐する時に子供の手を引く彼と犯行後に私の手を引く彼の様子がダブって見えるとか、スポーツカー俺と組んでのメロディとか、そうなのかな?と思った所を挙げ始めたらキリがないのですが。
スリルミーという作品は、そんなふうに対になっているというか、同じように見えるシーンやメロディが、かなりたくさん効果的に散りばめられている作品だと思いまして、そういう視点から考察しても面白いだろうなと。
ただ今回はあまりそこまで気を回す事が出来なかったので…今度はしっかりとその辺りにも注目したいので…再演を…なにとぞ…………

 

 


契約書をつくる場面で、唯一成河私だけがタイプライターを打つ前から『壊れてる欠けてる字もある~』と文句を言っていて、なんでだろって思っていたんです。
でも配信で改めて見たら、この行為に納得してないのに押し切られそうになっていて、言い返そうとしたのにそれすらも福士彼に上から遮られて、その当て付けにタイプライターの粗を探して契約書を作らない方向に持っていこうとしていたのだなと。
ここの言い返そうとした成河私の、不服そうに爪を噛みながら必死に考えを研ぎ澄ますような表情と、なにか良い反論を思いついたぞってパッと顔を上げた瞬間が好きでした。こういう彼に対して食って掛かる私の姿は、他のペアではあまりみられなかったような気がします。


あとは、犯行を思いついた福士彼に対し畳み掛けるように質問をしていた場面。成河私のあの言い方は危機管理的なものというより、ココを突けばどうにかなるかもしれないってワードを片っ端から上げて、福士彼を思いとどまらせようとしているように見えました。
それで駄目だったからまだマシな案として誘拐を提案したのに、それすらもその両方とかいう変な採用のされ方をしてしまって失敗したぁ…って顔をしていたし、最初弟を手に掛けようと話した時の『彼も家族だ!』も家族は大切なものだって感覚を持ち合わせていたというよりは、こんな事言っても無駄だろうけど万に一つの可能性に賭けてとりあえず捻り出した言葉って感じでして。
ここでもぐるぐる音が聞こえてきそうなぐらい脳みそフル回転って感じで彼に対峙する表情が非常に良かったです。


この計画で歌われる『親が悲しむ』という歌詞、このペアだけは『君は罪人』になっているんですよね。道徳とか情に訴えたぐらいでは福士彼には響かないと理解した上で、事実を突きつける成河私に妙に納得出来て、面白い変更だなぁと。

 

 


カメラさんもここ見せ場だと分かってたんですね?と言いたくなりそうなほどバッチリと収められた、ナイフで自らの指先を傷つける福士彼の姿。その、痛みにほんの少し眉を顰める表情のなんてセクシーなこと、彼はこんな状況でも自分を演出しているのかと関心してしまいました。
でも、そういえばあの時成河私には背を向けていたなと。自覚してやっているならそれを見せつけない手はないだろうし、自分から提案した手前、痛がるなんて弱みになりそうな部分は見せたくなかったのかなと。
ということは、福士彼は素で痛がる姿すら美しいって事でもあるんですよね…
反対に契約書のラストの指先で紙の縁をスッとなぞってから冷たく払う仕草、これは絶対分かってやっていたと思います。本当にズルイ男ですね。


ところで、福士彼がそんな風に自分の魅力を自覚した瞬間っていつだったんでしょう。
小さい頃から綺麗な子と褒めそやされていたぐらいでは、19そこいらであんなに美しさを盾にした魅惑的で高慢な態度を取ることは無いと思うのですが。
それと、たまにみせていた、まるで相手を暗示に掛けようとしているかのような蠱惑的な話し方。あの作り込んだように一音一音ゆっくりと放たれる言葉も、その辺の良家のお坊ちゃんには少し不釣合なような気がしました。
この「彼」にはいったい何があったのでしょうね。

 

 


壊れた船のように1人取り残されて、万里生私と松岡私は心がボロボロになるけれど、成河私はなんだかんだけろりとしてそうだなと。 執着はあるけれど思慕の念や寂しさ、もう自分の元には戻ってこないかも…といった不安は持っていないような気がしました。福士彼に対して割とハッキリとモノを言っていたのも、そういう孤独を味わう事に対しての恐怖が少ないからというのもあったのかなと。


福士彼の方は成河私に対して、一緒にいるのに相応しい頭脳を持った相手だと、ちゃんと認めて側に置いている感じがしました。まあ自分の方が頭良いと思っていそうでしたけど…
その上で、これだけしても相手が愛想をつかさないだろうって、ある種の信頼と甘えを無意識に孕んだ高慢な振る舞いをしているようにみえました。『ニーチェには書いてある俺達のような人間』だし『俺達が組めば何でもできる』とまで言っているわけですし、彼の中でもあくまで“彼と私”は一緒だったんだよなぁって。
私と肉体関係を持っていたのは、自分と同じような優秀な“強い立場の男”を心酔させ屈服させている事実に優越感や魅力を感じてたんじゃないかなと。


そういうとこだよこのペアがわからなくなるのって頭を抱えたのが、血を拭うハンカチを共有していた場面。
言われる前にさっさと行動に移るかと思いきや、律儀に『指を拭け』って言われてからハンカチを取出した成河私。使い終わってポケットに戻すと思ったのに当然のように福士彼に差し出すし、彼は彼でなんの躊躇いもなくほぼノールックでそのハンカチを使うし、これ普段からやってるのかってくらいに自然な行為でしたね。
どんな関係であれ、自分の血液で他人の持ち物を汚すのも、またその逆も少し抵抗がある気がするのですが…それを少しの疑問も無くやってしまうこの2人、愛情や友情というにはあまりにもドライすぎるし、だからと言って主従ともまた違うし、単なる頭脳戦を繰り広げるライバルでもない気の置けない間柄、一体何なのでしょう?


『希望の場所もし行けたなら〜』と歌いながら輝いた表情と溢れる笑みから、成河私が描いた2人の理想を想像しようとしたけれど、どうにも思いつかなかったんですよね。
あの喜びに満ちた顔から単純に想像出来てしまうような未来は、端から見ると2人には似つかわしくないような気がして分からないんです。

 

 


激情に駆られ、『何のスリルもない』と涙目になりながら上を向く福士彼が全くの想定外で動揺してしまいました。怒りとかは表に出しても、そういった弱い部分は徹底的に取り繕って人前で出さない気がしていたので。
ただ、そんな風に今にも溺れてしまいそうな苦しげな姿も一瞬で、『お前に従おう』と言った時にはキレて逆に対抗意識に火がついたみたいになってましたね。さっきまでの姿が嘘みたいに、来ないのか?ほら?って煽るようにベストの前を広げるし、いかなる状態でも駆引きがやめられなくなってしまっているのかなと。


スポーツカーでの子供との触れあい方が、ちゃんと子供の面倒を見たことある人のそれに見えて、もしかして本当は子供好きなんじゃないの?とか一瞬思ってしまったほどなのですが、やっぱりどう考えても絶対有り得ないですね。むしろ、今から起こそうとしている事への恐れも、興奮すらも微塵も感じさせない完璧さの上に、親しみやすさまで纏うことのできる福士彼の中身は恐ろしいと思いました。
でもあれが普段周りの人に見せている彼の姿にも思えて、いつもああやって自分の本心を押し殺して仮面を被り、完璧で社交的な姿を演じてたのかなと。
そして表面だけはにこやかに連れ去っていくラスト、ほとんどブレスしていないように見えたのに『近くにおいでーーーー』と物凄く声が伸びるのが不気味で、ピアノの旋律も相俟ってこの後を連想させる不穏な空気がどんどん広がっていくようでした。

 

 


取り調べ後の公園で『で?何て答えた?』って問いかけた福士彼には、お前ならさぞかし天才的に警察を躱せただろ?と言いたげな挑発的な笑みが浮かんでいるように見えまして。それがみるみる曇っていき、期待していた程には疑いが晴れていない事や、そもそも成河私がヘマをした事に対し烈火の如く怒り出したのは、信じてたのに裏切られたという失望の裏返しに見えて、なんだか少しだけ気の毒に…と思ってしまいました。
上の方でも少し触れたように、福士彼は成河私に対して“自分と同じぐらい優秀な上になんでも受け入れてくれる相手”として無意識に寄りかかっているように見えたので、実はその支えが自分が思っていたほど立派で丈夫なモノではなかったんだと感じて不安になって、そのやり場のなさにあんなに怒ったんじゃないかと。
どれだけ美しく完璧な姿を演じていても、結局はそういう未成熟な部分を抱えた、自分の居場所が欲しいだけの弱い人だったのかなって。  真っ当な形ではないにせよ、そうやって頼られていることを成河私は分かっていたように思うのですが。彼の全てを閉じ込めようとしてしまったのは、それだけでは足りなくなってしまったからなのでしょうか?


ついさっき気の毒にと書きましたが俺と組んでで、この期に及んでも策士であろうとしたのはどうかと思いますね。ハリボテのような甘い言葉はそれすらも魅力的だけれど、成河私を懐柔して助かろうとする前に、まずは少しぐらい反省しなさいよと。
そんな一世一代の誑かしに出た福士彼に口付けられた時、セットの縁を掴む成河私の左手が耐えるように小さく震えていて、もしかしたらもう少しで彼のことを抱きしめてたんじゃないかなって。戻れない道でもあんなにボロボロと涙を零すとは思っていなかったですし、殺人を犯したことに関しても、あくまで他の私との比較で1番ちゃんと悔いているように見えまして。だんだん後半になるにつれて生身の人間らしい葛藤が僅かに見え隠れしていて、もっと振り切ったサイコパスだったなら観てるこっちもこんなに胸を掻き毟られなくて済んだのにと。
死にたくないで一瞬映り込んだ成河私の胸が大きく上下していて、あれは一体泣いていたのか笑っていたのか...

 

 


爛々と輝く瞳と狂気的な笑顔で勝利宣言した成河私の、座ったまま首だけヌッと前に出して福士彼に迫る様子があまりに怖くて急にホラー映画でも始まったのかと。思わずヒッ……!って息を呑んで画面から離れてしまいましたもん。あれは成河私の本質というより、このゲームによって作られてしまった成れの果ての姿に見えました。
それでも取り乱さずに、まだ逆転出来ると信じてどうにかこうにか絞り出そうとしていた福士彼は流石でしたね。並の人間なら、目の前であんなバケモノみたいな人に迫られたら怖くて泣いてしまいますよ。でもここで動揺して何も出来ないような人間なら成河私も執着しなかったんじゃないかと。まあ、これなら勝てると確信した表情で放った反駁すらもめっためたに叩きのめされて、ぐぬぅ……って声が漏れそうな状態になってましたけど。非常に可哀想で良かったです。

そんな応酬の終わり、真正面から細く突き刺してくるような照明から少しはずれて前を向き、顔半分だけ異様に明るく照らされていた成河私。もう半分は表情が分からないほど暗く沈み、さっきまでの不気味な笑みとは打って変わって涙と鼻水でべしょべしょになった表情は、幾重にも重なった感情や底の知れない不気味さが際立って見えて、もしかしてあの位置計算して立ってたのかな…なんて思ってしまいました。

 

配信からだいぶ経った今、邪念やら何やらが色々削ぎ落とされた状態で成福ペアの事を考えると、胃の底がじわじわと重たくなってくるような感覚があるんですよね。最高に面白かったのに、その一言で片付けられない嫌な違和感が居座っていて、これは結局何だったんだろう?と。
ずっと答えが出ないような気もしますが、もう少しその気持ち悪さを抱えたままにしておきたいと思います。

 

 

 

 

 

----------------------------------------------
スリル・ミー
東京公演
東京芸術劇場 シアターウエス
2021年04月01日 (木) ~2021年05月02日 (日) ※一部公演中止

配信日 2021年5月29日(⼟)20時〜

 

スリル・ミー 松岡/山崎ペア ー5月29日の自室より

 

 

 

半年前の記憶を、できるかぎり直送で。

 

 


宣伝ビジュアルからでもそのフレッシュさがバシバシ伝わる、ピッカピカの新ペア ヤマコー。全く未知の存在にどういうペアなのだろうと思いを馳せつつ、どうしても都合がつけられなかった後悔を抱えてベコベコに凹んでいた矢先、まさかのスリルミー全ペア配信決定。
「ささやかなお知らせ」として公式から散々焦らされていたこの発表、全然ささやかじゃなくて目にした瞬間心臓飛び出るかと思いましたね。ホリプロさんのささやかの感覚が気になるところですが、とにかく配信の為に尽力して下さった皆々様、本当にありがとうございます。


ヤマコーペアは、これまた他の二組とは全く違う空気を纏っていて、とにかく青くて脆くて眩しい。溢れるエネルギーのままに物凄いスピードで転がり落ちてしまったようでした。
まるで割れた硝子を握りしめたような気持になる、弱くて可哀想で馬鹿な子供2人の話で、犯罪なんて犯さなくても真っ当に生きて行けるはずだったのに、それすらも分からなくなるほど行き詰まってしまったんだろうなぁという感じがしました。

 

 


山崎彼は周りからのプレッシャーを感じる以前に“絶対的な立場であらねばならない”と自分自身で強く思い込んでしまっているように見えました。でもそうやって強迫観念に囚われている事にすら気づけていなかったんだろうなって。


松岡私の事は、自分の優位さを自覚するための存在として気に入っていそうでしたね。 だから少しでも口答えされるのは許せないって感じで、ちょっとしたことでも凄い勢いで上から押さえつけてくるんですよね。自分が絶対じゃなくなるのが怖いから。そういうときの山崎彼、本当に凶悪な顔をしていました。少し口の端を歪めるのがまた、なんともいえず意地の悪い感じがするんですよね。でも暴走した松岡私を制御できる程の度量はなくて、どうしたらいいか分からなくなっている感もありましたね。
よく福士彼がドSやらクズやら言われているけれど、山崎彼も大概酷いと思いましたし、何なら他の彼らよりずっと幼稚で残酷な態度をとっていたと思います。成河私は福士彼に対して結構言い返していたので何だかんだ力関係が互角に見えるけれど、松岡私はそういう衝突をわざと避けて一方的に攻撃を受けているように見えたので、余計にそう感じたのかもしれません。


なんだか、山崎彼を見ていて中学時代のクラスメイトを思い出したんですよね。家庭環境の不満を傍若無人な態度でクラス中にぶつける事でしか自己表現ができなかった彼女。わたしもかなり被害に合いましたが、まあ彼女なりにしんどかったんだろうなと思える程度には大人になりまして。山崎彼からも、そうやって振る舞う事でしか自分を保てなかったのだろうと思える内側の脆さが滲み出ていて、見ているこちらが受け取る彼の残虐性をほんの少しだけ緩和させているようにも思いました。だからといって彼の行為が許される理由にはならないけれど、3人の彼の中で1番愛情が足りずに育ったような彼でしたね。

 

 


そういう彼の性質を全部分かった上で、松岡私は彼に嫌われないようにわりと手加減をしたり機嫌を伺いながら発言していた印象があって、この2人は絶対私の方が精神年齢高いなと思いました。
でもどうしてそんなに酷い扱いを受けながらも山崎彼の側が良かったのだろうと考えたんですけど、あのぐっと言葉を飲み込む感じからして松岡私自身あまり器用に周りと関係を築けないタイプで、たまたま幼馴染だった彼の側だけがずっと自分の居場所で、ここを失ったら終わりだってどこかで思い込んでしまっていたような気がします。( 2人して思い込みの強いペアですね…)
もし松岡私が最初から一人ぼっちだったなら、それはそれでそれなりにやって行けそうな雰囲気もあったのに、わざわざ卑下したような態度をとってまで彼に縋りつきたかった気持ちとは…と色々考えてしまいます。


後先考えず突っ走る山崎彼とは対照的に、じっと周りの様子を伺ってどうしたらいいか次の手を思案しているような表情が印象的でした。ハッキリ否定はしないけれど、本当に大丈夫?って疑うようなニュアンスで問いかけてたりしていて、しっかりモノを考える賢い子って言葉が似合うタイプだと思いましたね。でもわざと証拠を残して彼を陥れる狡猾さはなさそうで、重なった偶然を利用していたら気づいた時にはどうしようもないところまで転がり落ちてしまったって感じで。その分、九十九年での告白の意外性は松岡私のものが1番大きく感じました。


彼に疎まれないためにも理性でどうにか抑えようとしていたけれど、実は松岡私の内に秘めたエネルギーはかなり大きかったんじゃないかなと。僕はわかってるでも、スリル・ミーでも、もっともっと激しく山崎彼に訴えることができそうな勢いがありましたし。いや既に暴走しかけて、スリルッ!!!ミーッ!!!って物理的に飛びかかってたしめちゃめちゃ鼻息荒くかぶりつきそうな勢いでしたけど。本気出したらあんなもんじゃ済まなさそうだなと。でも、それだけ勢いよく押し倒した事後でもさりげなく山崎彼の顔色を伺っていたりしていて、ほんとにずっと他人の事を気にする子だなぁと思いました。

 

 


しょっぱなから頑張って格好つけているのがガンガン伝わってしまう山崎彼、若さだなーって感じで結構好きでしたね。冒頭の公園で私に忍び寄る場面を見た瞬間、動き固いな!?って思ってしまったのですが、それすらも“頑張ってスマートに見せようとしてる彼”として良い風に作用してみえて、ああいうの狙ってできるものでもないと思うので若いって素晴らしいなと。
煙草を吸うときもちょっと恥ずかしいくらいに表情を作るし、でもそんなに仕草がキマっているわけではなくて煙草自体もあんまり得意じゃ無さそうで、ああこの子背伸びしたいんだろうなぁって。
血の契約でナイフを取り出す時も、とっても得意気で、松岡私に対して真っ直ぐ刃先向けてましたもん。思わず刃物は人に向けちゃいけません!って言いたくなりました。若さですね…


松岡私もスリル・ミー で押し倒す時に勢いがありすぎて彼の頭をゴンって床に打っていないか心配になりましたよ…これも若さですね…
あとバードウォッチングでの見事な仁王立ちも、なかなか威勢が良いなって思いましたよ…
若さって良いですね…

 

 


父親から大事にされていない事実を口にする度に、怒りと悔しさと寂しさに呑まれて震える肩は山崎彼自身の恵まれた体躯よりもずっと小さく見えて、外側だけ成長してしまいガチガチに虚勢で固められた彼の中の、 傷付いた子供のままの心が泣きわめいて顔を出してるような痛々しさがありました。山崎さんは声も非常に良いので、彼の立派な見かけとそこから覗く不安定な中身とのアンバランスさが際立っていて良かったですね。
超人たちのラストでは興奮しきったまま、松岡私の両手を無意識にぎゅっと握っているように見えまして。あれ?サンドバッグ扱いしていると思っていたけれど、もしかして松岡私は安心毛布か何かですか??


それから脅迫状を作るためにタイプライターを打つ表情がとても真剣であどけなくて、それでいてそれまで見せたことのない穏やかなものだったので、山崎彼はこんなことでしか心の平穏を取り戻せなかったなんて…と親戚のおばさん目線みたいな気持ちで悲しくなってしまいました。でもその直後に脅迫状を読ませる時の『これで見えるだろ?』がご機嫌そうではあるけど全然優しくない。っていうかあの距離じゃ松岡私多分読めないですよね。こんな時でも意地悪なのね山崎彼…

 

 


松岡さんの大きな瞳は本当に印象的だったなと。
取調室で、彼を裏切ってしまった、大変なことをやってしまったと泣くのを我慢しているような不安げな瞳が大きく揺れていたのが目に焼き付いているんですよね。
いつも、吞み込んだ言葉の数々の代わりに何かを訴えているようで、そのリミットが外れてギラギラしだしたり、54歳の姿で過去を振り返った時にパッと輝き出したりして、何重にも感情が乗っていくのが魅力的でした。
特に彼との思い出を語る時の瞳の輝きはそれだけで、松岡私にとって山崎彼との記憶がどれだけ美しいものだったかを思わせるようでした。

 

 


山崎彼、私が取調受けるくらいまであんまり危機感持ってなさそうでしたね。
それが突然どうにもできない段階までいってしまって今更ダサい所なんて見せられないって感じで、 なんとか取り繕うことと自分が助かる事しか頭になくなっていて可哀想なくらいでした。俺と組んでのくちづける直前、一瞬“どうしよう……”と躊躇いがあったように見えて、もう頭の中あっぷあっぷしてたのかなって。


これは山崎彼に限った事ではないのですが、この場面での彼は自分が死にたくないが為に、司法取引で助かる予定だった私を裁判に持ち込ませて極刑のリスクを負わせているので、なかなかにクズだなって思うんですよね。主犯は彼な訳ですし、この時点では私が裏切ってる(仮)のを知らないので完璧に利己的な判断だなって。
でもまあ山崎彼があんまりにも必死なので、絆されないようにぐっと心を閉ざして耐えようとしていた松岡私の気持ちも分からなくはなくて、こんな姿見せられたら誰だって心揺らいでしまいそうだよなと。


 『わかったよ』と返事をした時には覚悟を決めたような、過ぎた日々をもう戻れないと懐かしむような顔をしていて、松岡私はこの辺の強い覚悟とこの後も現れる気持ちの揺れがとても大きかったように思います。強がってみたり壊れかけて暴走したりしつつも、これで良かったのかなって最後まで葛藤してたように見えて、こうする以外に術を見つけられず突き進むしかなかった等身大の青年の哀しさが際立っているようでした。

 

 


審議委員会での『あのようなことを起こさなければ……』みたいな台詞は、殺人に対しというよりもこれがなければ彼を失わなかったのにって後悔に聞こえました。
九十九年の『怖くなったか?』って問いかけが、怖がられて気持が離れちゃ困るって感じで、仮釈放が認められた際の『自由……?』も彼のいない世界のどこに自由があるのかとでも言いたげな顔をしていて、松岡私にとっては本当に山崎彼の存在が世界の全てになってしまっていたんだなって。
彼の幻影を見つけた時の駆け寄りかたも、一番必死さがありましたね。

 

 


この2人は本当に、持って生まれた狂気性よりも環境的なモノが圧倒的に大きそうなので、なんか…こう…上手いことどうにかできる大人が近くにいたらなぁって……
もう19歳なんだから視野を広げて自分達でなんとかしろと思うよりは、なんでこんな馬鹿な事をするまでこの子達を放っておいたのかと周りの大人に責任を問いたくなってしまうような、そんな幼さを感じました。絶対許されない事をしたのは頭で解っているのに、なんとなく“身を寄せ合って 膝を抱えて泣いている子供”を連想してしまったんですよね。


お互い出会わなければ、ほんの少しのキッカケさえなければ、もっと違う人生だっただろうなと思うようなペアでした。

 

 

 

 

 

----------------------------------------------
スリル・ミー
東京公演
東京芸術劇場 シアターウエス
2021年04月01日 (木) ~2021年05月02日 (日) ※一部公演中止

配信日 2021年5月29日(⼟)17時〜

 

スリル・ミー 田代/新納ペア ー4月22日の客席より

 

 


半年前の記憶とメモとTwitterを遡ってできるだけほやほやな気持ちで書き起した感想。

 

人生2回目のスリルミー。1度目はついこの前観劇したばかりで、記憶に新しい訳です。

つまり、内容を把握しているので初回のような衝撃は無いはずなんです。

無いはず…だったんですよ………


全然!!違う!!!話!!!?!?動機も結末も違う!!!!成河福士ペアと世界観が違いすぎて観劇後、何を観たんだ??と震えるしかなかったわたし。

同じ脚本でも演じ方で話が違って見えるって、ガラスの仮面で散々学んでた筈なんですけどね。いざ実際に目の当たりにするとその凄さが理解の範囲外すぎて動揺するんですね。

 

 


まず、にろまりペアの間には愛情ってワードが浮かんだんですよね。二人の間で、求めたり押し付けたり与えたり試したりしてやりとりされている愛情。成福では執着とか情は感じたけれど、愛って呼べるような手触りのモノではなかった様に思うのでその時点で根本から別の話に感じました。

 


そして万里生私が新納彼に向ける愛がとにかく重たい。あまりにも盲目的に彼を求め、些細な事にも感情的になったり恍惚とした表情を浮かべる情緒不安定さは傍から見るとある種の狂気を纏っているといいますか、万里生さん大好きであえてこの言葉を使いますが非常に気持ち悪くて怖い。彼の事を今ではどう思っているかという質問で、当時を思い出してうっとりとした表情を浮かべるのも、その直後に彼の亡くなった事実に号泣しだすのも、何かもうとてつもなく真に迫るものがありまして……2014年版の音源も他の私に比べて感情的なイメージはありましたが今回はそれに輪をかけて激しい。あまりにも純粋に真っ直ぐで強すぎる矢印に、こんなもの向けられたら普通の人間なら速攻で潰されるか逃げ出すしかできないなと。それに負けないほど、どっしり構えて堂々とした風格があった新納彼でなければ一瞬でパワーバランスが崩れていただろうなと思わせる私と彼でした。


あと、台詞の延長線上に滑らかにメロディが乗って行く様な成福に対して、にろまりは圧倒的歌唱!!美声と音圧!!!めちゃくちゃガッツリ歌い上げてそこにお芝居が入っていく感じで。特に万里生さんは最初から最後まであらゆる感情フルスロットルのままガンガン歌い上げるので、毎公演これだと干からびない?喉大丈夫??って心配になるほどでした。あれだけ激しいのに歌として破綻していないところ、本当に凄い。

二人とも明らかに、席数300に満たない劇場向けの声量ではなかったですよ…それなりに前の席だったこともあり、浴びるほどの大迫力でこんな歌声聴けるなんてもう一生思い残すことはないなって劇中にぼんやり考えてしまいました。

 

 

 

新納彼は完璧や作り物というよりは人間味があるタイプの彼で、感情の動きはしっかりあるけれどそれを常に自覚し、理性でコントロールしようとしている様に見えました。

万里生私のことは手間のかかるけど他に代わりはない大事な大事な愛玩動物みたいに思っていそうで、絶対自分から離れない加減を分かったうえでちょっと意地悪したりしていそうだなって。

立ち振舞いが堂々としていて、いかにも金持ちで力があって何不自由無い男という感じがして良かったです。

 


万里生私は、上でも触れた通り彼を求める様にゾッとするような気持ち悪さがあって契約書の二人を決して離さないの辺で見せた笑顔とか九十九年の『永遠に……』のところなんてもうこれ以上の幸福はないって顔で、もうこの人完全に狂ってる…!って。

どうしてこんなに不気味に感じたのか考えてみたのですが、二人の間に愛という同じ名前のモノが存在しながらその性質と比重が違いすぎて、万里生私の方がかなり一方的に見えたからだと思うんですよね。新納彼が向ける愛情が、腕の中で暴れる子猫を宥めるために優しく撫でるようなものなら、万里生私のそれは彼を抱きしめたまま丸ごと呑み込んでしまってもまだ表現しきれないものだったのかなと。

『俺が寝ているのを見ていればいい』と冷たく言い放たれた後、ありがとうと小さく呟いた万里生私は冗談抜きで一晩中でも彼の事を眺めてそうな勢いでしたね。

 

 

 

 契約書で万里生私の手を取る時に新納彼が言った『痛くはしない』がぐずる小さな子供をあやす親のように優しさに溢れた言い方で印象に残っているんですよね。まあ実際切る時は出血待ったナシな勢いでザックリいったんですけどね。その後、自分はまるで万里生私に見せつけるみたいに指先にナイフを当てて、カッコ良くピッッって小さく切っていて何かのプレイなのかと思いましたけどね。

あとあの夜のことで半泣きになっている万里生私の真似をする剽軽な一面を見せていてこの状況でずいぶん余裕だなと思ったんですが、あれは万里生私を落ち着かせる為にやってあげてたのかなと。あの時の新納彼は自分の身の保身の為ではなく、本気で万里生私の事を心配しているように見えたんですよね。

そういうちょっとした態度の一つ一つが、この彼は私を大事にしているし優しさも持っている彼なんだなぁって思えるものでした。

『今はまだ駄目だそんな気分じゃない~』のところなんかも、新納彼は今じゃなきゃ本当にOKしてくれそうな感じがしましたもん。ちなみに、福士彼はいつでも駄目そうでしたね。

 


反対にスポーツカーの場面では特段子供に対して優しそうなそぶりを見せていなかった気がしまして。まあ子供なんてちょっと愛想良くすれば勝手についてくるだろ程度に考えていそうな態度なのだけど、それでも子供が惹かれてしまいそうな魅力と説得力を感じました。

この場面では普段彼が私以外の人達にどう接しているかが垣間見えると思っているのですが、新納彼のカリスマ的な魅力には老若男女が引き寄せられるしその好意にそつなく応えることもできるけれど、内心かなり見下していて心を開いたり愛情を示すことって無さそうだなと。

 

 


囁く様に、だけどハッキリとした意思を持って万里生私の口から零れ落ちた『見殺しにはしないよ』って台詞はまるで“そんなことがあったら僕が一緒に死んでやる”と言ってるように聞こえました。

そんな地の果てでも 地獄でも 彼と一緒ならどこへでも行くって覚悟していそうな万里生私なんですが、俺と組んでで新納彼に後ろから抱き締められた時にほんの一瞬、物凄く哀しい顔をしたんですよね。またすぐ何の表情もなくなってしまったけれど 、あんなに傷ついた表情は後にも先にもあの時だけだった気がして。新納彼が、自分が助かりたいばっかりにわざと甘い言葉を囁いて騙そうとしてくるのが辛かったのかなとか思ったのだけど、どうだったんでしょうね…

この場面や取り調べ後の公園で新納彼が自分の保身に走ってしまったの、今までの彼の態度からするとどうしてなのよ!?って思ってしまうのですが捕まって刑に処される恐怖が上回ってしまったのかなと。その辺はやっぱり彼も19歳だったんでしょうね。

 

 

万里生私の少し焦ったような『こわくなったか?』は 天才である彼を越える事が出来て褒めて貰えるとるんるんで期待していたのに、思った様なリアクションがないし嫌われたらどうしようと心配になっての発言に聞こえまして、ここまで来てする心配がそれなのはあまりにも純粋な狂気だと思いました。

そもそも万里生私の向ける新納彼への思いは最初からずっと純度が高くて、明らかに肉欲を孕んでいるのに不思議と真っ白とか穢れがないとかそういう言葉が似合ってしまう気がするんですよね。だからこそ非常に怖くもあり眩しいほどの高潔さも感じて、このペアでは二人の犯した罪の是非よりも愛に意識が行ってしまうのかなと思いました。

倫理的に許されないことすらも美しく覆い隠してしまう愛って存在、物凄く恐ろしいですね。

九十九年の歌い出しで新納彼が全て諦めた様に大きく溜め息をつくさまが妙に印象に残っているのですが、それも薄々感じていた万里生私の純白の狂気を制御しきれなかったことに対してだったのかなと。

 

 

釈放後、彼の写真をきっかけにあの頃の若々しい姿になった万里生私は、彼の幻が消えると共に現実の54歳に戻ったように見えました。

それなのに『スリル、ミー』と驚いた様に振り返りパッと咲いた初々しい笑顔が、もうこれ以上の幸福はないと言わんばかりの表情で、まるで自分で作り出した一生出ることの出来ないような新納彼の幻影の中に入り込んでしまったように見えたんですよ。これはこれで万里生私は幸せだったというか、堕ちるべくして堕ちたペアという感じがしました。

 

 

 

 

 

----------------------------------------------
スリル・ミー
東京公演
東京芸術劇場 シアターウエス
2021年04月01日 (木) ~2021年05月02日 (日) ※一部公演中止

 

 

スリル・ミー 成河/福士ペア ー4月11日の客席より

 

 

 

難しいこと考えるの苦手!!感想なんて頭のいい人が書くもの!!!わたしには関係ない!!!!

そんな風にゆるゆると観劇ライフを送っていたわたしが、この気持ちを何かちゃんとした言葉として残さないともったいない……!と思う程の衝撃を受け早半年。

今だその気持ちが枯れそうにないので、当時の殴り書きメモとTwitterを頼りにできるだけ初々しい気持ちで書き起こしてみた次第です。

生まれてはじめてスリルミーを観た人間の感想なので、実は今の自分の解釈とも結構違います。歴戦のスリルファンの方からすればその考え方おかしくない?と思う点があるかもしれませんが、ゆるーい感じに読んでいただければ幸いです。

 

 

 

「スリルミーっていう作品はとにかく凄いんだよ!!」数年前に観劇関係のフォロワーさんから教えてもらったのをキッカケに、あれよあれよという間に深みに嵌り2014年版のcdを全ペア購入し擦り切れそうな勢いで聴いたこの演目。2018年の再演は諸々が重なり涙を飲む結果となったので、今回満を持しての初観劇となりました。

成河さんも福士さんも、名前は存じておりましたがおそらく始めましてな役者さん。前評判なども一切入れず「今までのポスターとかトレーラーのイメージだとアダルティで湿度の高そうなペアだな♪」なんて呑気に想像しながら劇場へ。

結果、自信に満ちたスタイリッシュドS彼と、ちょっと臆病だけれど元気のあり余っている子犬のような私という全く予想外な超パワフルペアに脳味噌をかき回される事となりました。演劇って面白い。

 

 

 

ピアノが鳴り響いた瞬間に落ちる客電。美しくも胸を締めつけるような不穏さをはらんだ旋律に、すごい!!cdで聴いたやつだ!!!と、既に張り詰めまくっていたテンションが更にMAXに。あまりに興奮しすぎていて成河私が客席通路を通って来たことに気づかず、突然ぬるりと舞台上に現れた事にビビるわたし。

そこからの54歳の成河私の印象は、「なんかいい人そう…」でした。本当に殺人犯なのかと疑いたくなるような思慮深く物腰の柔らかい初老の男性像のハマりように、成河さんって実年齢こっちの方が近いんだっけ…?じゃあもしかして若い時の演技はそんなに期待できないのか………?なんて今思うと失礼極まりない事を考えた数分後、暗転一つでぴちぴちピカピカの19歳成河私が現れ、髪や肌の色ツヤまで違って見えるその姿にそのマジックでも見てるのか??と椅子から転げ落ちそうな気分でした。見た目は照明の力も少しはあるだろうけれど、声質までぜんぜん違うってどういうことなんでしょうか?

きっちり膝を揃えて座りながらちまちまとメモを取る姿を見て、19歳の頃は少し冴えないおとなしい青年だったのかなって思いましたね。この後どんどん印象が変わっていくのですが…

 


そして登場した瞬間から圧倒的に美しい福士彼。予想外の美しさに動揺して、またもや椅子から転げ落ちそうになるわたし。

今日日、ちょっと検索すれば一目でわかる事なので、もちろん福士さんが格好良いのは知ってましたよ??

でも、福士彼という存在はそれに輪をかけて美しかったのです。周りからの視線を理解するが故の作り込まれた魅力と尊大さを纏った彼を、福士さんは完璧に演じているように感じました。計算されつくした身のこなし、スッと差し出された指先にまで色気が漂い、心なしかお顔も陶器のようにつるりと滑らかな輪郭をもつ作りもののように感じたんですよね。そんなことある?ってなんども双眼鏡をのぞきこんだんですけど、あったんですよそんなこと。

マッチの火に見入る姿なんか、成河私でなくても執着したくなりましたもん…………

 

 

 

福士さんの歌声はまるで深い洞窟から響き渡っているようで、 成河さんはそれとは逆に高音の部分に少し尖ったような鋭さを感じたのですが、優しい炎で二人の声が重なるのを聴いた瞬間は結構な衝撃でした。びっくりするぐらい相性が良くて、相反する音が不思議に溶けあって本当に綺麗なんですよね。それぞれソロでも充分魅力的なのにさらに100割増しって感じでした。…なんでこのペアのCD出てないんですかね?

そして動きのタイミング、これも揃うべきところが鮮やかに一致していて観てて気持ちがいいぐらいでした。この作品、内容が内容なのでそういうのはあまりないのかなと思っていたのですが、意外と振付めいた動きが多いんですね。二人がそれぞれ上手と下手でシンメトリーな動きをしている、契約書、僕の眼鏡/おとなしくしろのあたりとか。この日は後方席だったので引きでその様子がよく見えたのですが、福士さんも成河さんも身のこなしが綺麗な上に阿吽の呼吸で、あのクルッ クルッ カチッ っと音がしそうなオートマチックな動きがピタッとハマっていたんですよね。…どうして他にこの二人の舞台の共演作がないんですかね?

 

 

 

ナイフで指を切るところで、怖がりすぎて彼の背中に顔押し付けてギュッっと目をつむる成河私。ここら辺のドッタンバッタン感や彼に対して言う『ねぇ~~えっ!!』や『おぉ~いっ!!!!』なんかのビックリマークがたくさんついていそうな、ちょっと大げさだけれどストレートなリアクション、くるくる変わる豊かな表情に、成河私大人しそうだと思ってたけれど意外と元気でちょっと子供っぽいのかななんて思いましたね。計画 で『お前……以外で』って言われてくぅうんって鳴き声もらすところとかも落ち込んだ子犬みたいで。でも、その後福士彼が 『前にもやったことがある』って言った瞬間顔色が変わって、指先にナイフを当てる間中、考えこむようなジットリと睨み付けるような複雑に沈んだジト……………………って目で見てたのがすごく怖かったりして、やっぱり成河私のことは掴めないなと。

そしてここの指先を切るのとピアノが高く一音鳴るタイミングの一致具合、福士彼の仕草も相まって、その一瞬を閉じ込めたくなるような完璧に美しい場面でしたね。

何度もしつこいようですが福士彼は美しすぎるんですよ。

劇中何度も、何で成河私は福士彼のこと好きなんだ…?という疑問が浮かんだ程度には成河私に対して(というか犯罪以外の全て?)に無機質で感情が読みにくい彼だったのに、その筈なのに、私への情みたいなモノも確実に彼の中にあってそれが時折のぞいていたような気がして、何だかんだで私のことが好きというか“私が望む彼像”みたいなのを“私が喜ぶから率先してやってるドヤッ”っていうのがある気がしたんです。何処の場面か忘れてしまったけれど、微笑を湛えて『ん?』って言ってきたところとかも自分の魅力を最大限に利用して“お前こういうの好きだろ?”って表してるみたいで。成河私を思い通りに転がすための打算的な部分もあるけれど、そうじゃなくて単純に“自分の気に入った相手にいい顔してやりたい”みたいな事で、意図的に美しい自分を演じている面もあったのかなって。

なんかすごーーーーーーーーーーーーーーーくたまに気まぐれに自分から構いに行きそうな感じがあるんですよね福士彼。

 


上でも少し触れましたが成河私はエネルギッシュで少し子供っぽい面があって“彼大好きこっちみてそうじゃなきゃ噛みついてやるぞっ!!”って下からキャンキャン吠える子犬みたいなだなと。だからこそ無理矢理にでも福士彼を明るい方向に引っ張れたんじゃないかなと思ってしまうところもありまして。

『見殺しにはしないよ』の一言が、父親の愛を欲しがり小さな子供の様にうずくまる福士彼に寄り添って、大丈夫だよと背中を擦ってあげているような言い方に聞こえたり、死にたくないで隣の独房の様子を窺っていた時、嘆く彼の声を聞いて辛そうにギュって目を瞑って上を向いた後、また目を閉じたままスッ…って無表情に戻って気持ちの揺れを見せていたりで、福士彼のことを純粋に想っていた面もあったんじゃないかなって。

九十九年も歌い出しの台詞のあたりは泣いているように見えて、そこから表情が変わってラストの『九十九年~』までは薄く笑っていたのに、また『永遠に……』で泣きそうな顔をしているのが見ていて悲しかった。気持ちがブレブレというか…欲しくて欲しくてしかたがないおもちゃを無理やり手元に置いてみたけれど、こういうやり方は本当は望んで無かったって最後に気づいてしまった感じもあったのかなと。

この後仮釈放が認められ『自…由……?』と呟いた後、掲げた腕から手錠が外されるように組んだ両手を外していく。そのジリジリとした動きがあまりにも印象的で、成河私の手元に目が釘付けになりました。そこにだけ当たった煌々とした照明も相まって何か神聖な儀式の様にも見えて、あの瞬間成河私は何を考えたのだろう。

 

 


福士彼はスポーツカーの時の、にこやかに子供と目線を合わせたりちょっとおどけて車のキーをちらつかせるような態度もとれるいかにも万人受けする好青年が、成河私は冒頭のバードウォッチングで見せた大人しくて少し地味な姿が、周りの人達が知っている彼らだったのかなって。

だから、2人だけでいるときの冷淡ですぐモノに当たりちらすような身勝手で容赦ない福士彼も、抱きしめてほしい、欲しいものは欲しいんだと駄々っ子のように感情を爆発させてぶつける成河私も、それを見せられるのはお互いだけだったんじゃないかなと。成河私の胸ぐらを掴んだり突き飛ばす時もドガッって音してて心配になるくらい手加減一切なしって感じで、ある種の信頼がなきゃ福士彼もあそこまで酷いことはしないかなとか。

それが愛ゆえだったとは言わないけれど、普段は抑圧された本当の姿をぶつけても離れていかない信頼関係とか、それに基づく情みたいなものは時折見えていたように思えて、そう考えると成福ペアも結構共依存感が強かったのかなって。そんな共依存の小さな世界の中で、福士彼の人より優れた存在でありたいという欲求と、どこまでも彼に執着したい成河私の欲求がそれぞれ大きくなりすぎて、数々の駆引きの末にお互いでは抱えきれなくなってしまったのがあの結末なのかなぁと。

 


「成福ペア、一歩間違えたらコミカルになりそうな片鱗あるのにそうならないの凄い」

観劇後にこんなツイートを残していて、このストーリーでそう思った要因って何だろうと考えたら、コミカルというか、いきなり超人とか言い出すし完全犯罪なんて無茶があるし何やってんのこの子達は? みたいな滑稽さを感じた部分にあるのかなと。弟が何歳か分からないけど、仮に弟の代わりだったとしても自分達より小さくて弱い存在を対象にしたのはとても卑怯だし、結局は親の金の力で雇った弁護士に助けて貰ったりして、彼も私も自分達が思っているよりも愚かで子供だったんじゃないかなって思ったんですよ。そして54才の成河私はそんな2人の愚かさも含めて、34年間ずっと後悔してきたように見えて。

成河さんと福士さんのスリルミーは、天才でも超人でもなくて、そういう視野が狭くて幼稚な二人を意図的に強調してたのかなって思いました。

 

 

 

 

 

----------------------------------------------
スリル・ミー
東京公演
東京芸術劇場 シアターウエス
2021年04月01日 (木) ~2021年05月02日 (日) ※一部公演中止